私は再び病院の屋上に忍び込んだ
 
鍵の掛かっていない扉は、
錆びついた音を立てて簡単に開く。

とっぷりと夕暮れに染まった鳥籠の世界
細く長く黒々と伸びたフェンスの影

あれから何ヶ月も経つのに、
あの日と何ら変わることの無い風景。

私は金網にもたれかかるようにして下の世界を目に映した。

「・・・チェシャ猫・・・・」

猫はどうして姿を現さないのだろうか

私はあの日以来、猫に出会うことはなかった。
本当に役目を終えたからもう現れないだけかもしれない
だけど、もし体と一緒に砕けてしまったのなら・・・

考えただけでも寒気がする
嫌だ、そんなのは

ぎゅっと瞼を閉じて私は耐えた。
目を瞑ると今でもあの音が脳裏に蘇る

シロウサギが砕け散る儚い音
そして、猫の体も砕け散ったあの眩い光


カランッ


「・・・・?」

音に振り返ると、あの見慣れた鈴が転がっていた。

赤い紐とあの時より少し錆びれた金の鈴
音など鳴らないと思っていたのに

チェシャ猫の鈴がどうして・・・

拾い上げた鈴は冷たくて
猫の温もりなんて、思い出せはしない。

・・・君が望むならって、言ってたくせに

なのに、どうして

ぎゅっと、大切な猫の鈴を抱きしめた。

「・・・っ・・・」

流れはじめた涙は、
とめどなく頬を濡らしてゆく。

どうして、私の願いは叶わないの
どうして、この想いを叶えてくれないの

「・・・会いたいよぉ、チェシャ猫っ・・・!」


もう、願いは叶わない

     
想いは正しく伝わらない <<ねぇ、アリス。僕は君の元に帰ってきたよ>>
  ++++++++++++ 猫verは↑の猫の言葉から続いております。