祈りは螺旋のように
眩暈がする。



世界がぐらぐら揺れる。



ああ、まただ。

私はふらふらと席を立ち上って扉を開けて、授業中の静かな教室をするりと抜け出す。
誰も私に気付くことはない。
「雪乃」は元からこの世界に存在なんてしないのだから。


たどり着いた無人の保健室。
ベッドに横になって、私はそれが去るのをじっと待つ。
眩暈の頻度は 確実に増えてきている。私が歪むまでの、カウントダウンのように。
ふと目を開けると、ベッドに巡らされた白いカーテンと、天井の白い壁が視界に入る。
白、白、シロ。
見渡す限りの、白。
妙な切迫感に、再び目を閉じて視界を遮断する。

白は嫌、すぐに良くないものに染まってしまうもの。
まるでシロウサギの毛皮みたいに。私の脆さみたいに。
働かない頭でぼんやりとそう思った。

私は今どんな表情をしているだろうか。もしかしたらもう人の顔をしていないかもしれない。


亜莉子から吸い上げる歪みの負荷に きっともう私は長くは耐えられない。



「―――雪乃?」


耳慣れた、この世界でただ1人私を呼ぶ声に反射的に飛び起きた。


「・・・亜莉子」

「急に教室出て行くからびっくりしちゃった。・・・体調、悪いの?」

亜莉子は不安気に私の顔をを覗き込む。
心配して、教室を抜け出してきてくれたみたいだ。
授業をさぼるなんて、したことない癖に。

本当は存在しない私の為に、こんなにも亜莉子は心を砕いてくれる。

「熱は、無いみたいね。でもやっぱり顔色が悪いみたい」

おでこにあてられた亜莉子の手はじんわりと温かい。
手の冷たい人は心が温かい、なんてきっと迷信だ。
だって亜莉子の手はこんなに温かいもの。

「ほら、ちゃんと寝てなきゃ!」
私は亜莉子にぐいぐいとベッドに寝かしつけられる。


「・・・亜莉子は優しいね」

するりと口をついて出た言葉に、亜莉子は脇の椅子に腰掛けながら
「なあに、いきなり」と笑う。


「亜莉子は、やさしいよ」


あなたはまだ知らない。
私が どうしようもなく我侭で、残酷なことをしようとしていることを。

知っているの。あなたが私に与えたものが「歪み」だけではなかったことも。
本当はあなたが私よりもずっと強いことも。

生きていて欲しい。でも反面、あなたを傷つけるこの世界からあなたを連れ出したいと思うの。
そして歪んだ私はきっと 後者を選んでしまう。
吐き気がするくらいそんなこと自分で分かっている。

「ごめん、もうちょっとだけここに居て?」

もう時間がない。戻ることなど出来ない。
過去を後悔などこれっぽっちもしてはいないけれど。

「うん、ちゃんとここに居るから」

あなたの穏やかな顔に私は何より安堵する。
今こんなにも近くで笑ってくれているのにいつか私はあなたを引き裂いてしまうの?


泣き出してしまいそうで頭まで布団を被った。
辛うじて正気を保つこの器で、たった一つの祈りが螺旋のように連なっていく。



アリス。               
                   
            
あなたは「私」を シロウサギを 捕まえてくれる?







+++ひとこと+++
ゆ、雪乃!雪乃万歳!!(待て)
雪アリってやっぱりいいなあ。ああ雪乃が可愛い・・・(和む)
亜莉子も優しいけれど雪乃も優しいし、なにより切ないです(ティッシュを)
ありがたく頂戴いたしましたvvこれからも見捨てず仲良くしてやって下さいな〜。