「やあ、元気かい」
首狂いの女王の城の近くにあるようで、そう近くない薄暗い森。
不思議の国の住人も、たまに迷い込んで帰って来ないこともある。
まあ、女王に刈られてるのが大半だと思うけどね。
そんな場所へわざわざ来たのには、もちろん理由があった。
「チェシャ猫、体は大丈夫なの?」
昨日アリスが問いかけた言葉。
守ってくれたのに、私の所為で。
粉々に砕けてしまったと、声を暗くしてアリスは言った。
「きっと好きにやっているさ」
頭(といっても頭しか無いのだけど)を撫でる掌の温もりを堪能していたのに。
アリスに分からない程度の不満を顔にした。そしていつもアリスを不思議に思うのだ。
僕らの事で悲しむ必要は無いのにね?本当にアリスは小さな頃から相変わらず、だ。
鬱蒼と生い茂った薄暗い森の中を迷うこと無く進み、
変わらない景色を随分と行くと体はいた。
のっそりと木の影から姿を現した灰色の姿はあまり変わっていない。
体はしゃがみ込んで頭を胸の高さに持ち上げてきた。
「おや、綺麗だね」
丁度この位置から断面に乾いた血がこびり付いているのが見える。
思いのほか綺麗に切断されているのは、やはり女王の馬鹿力の所為だろうか。
体もそれに肯定するらしく縦に揺れた。
これでも最低限の意思疎通は図れるようだ。
元は繋がっていたのだから当然の事だけどね。
「考えるところが無いから体はいいね」
腹が空くのはそっちだろうけど。
体は抗議をするのか僕(頭)を左右に勢いよく振った。
『そっちだって食べても収めるところが無いじゃないかって?』
たまに食べたくなるのだから仕方ない、それに猫の本能というものだ。
「食欲に似ているけれども、もっと違ったものさ」
そう、食欲とはまた違った渇きがある。
言葉を理解できなかったのか、体は不思議そうに横に傾いた。
「好きにやってるなら、それでいいんだよ」
用事は済んだのだ。転がり落ちるように手から地面に降りて、元来た道を帰る。
理解できなくてもきっとアリスの危険を感じれば、また体は助けにくるだろう。
僕が歪んだときは、どうするかは知らないけれど。
行く末知らず、君知らず
<<きっと理解している筈なのにね>>
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頭だけの猫が転がって森まで来たのか、
浮遊(?)してきたのかは想像にお任せいたします。
赤い猫寄りの場合、カタコトであんまり喋らない気がします。
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