「アリス」
 
 
 
チェシャ猫の声がする
 
 
 
私の名前を呼んでいるのだ
 
 

ここは不思議の国の世界
 
 
 
私とチェシャ猫だけになってしまった世界
 
 

「アリス」
 

 
恋焦がれるような、チェシャ猫の声

 

チェシャ猫に限ってそんなことないけれど
 
 
 
あの時、目を閉じ、良くないものには全て見えないふりをした
 


チェシャ猫がどんなことをしていたって、私は目を閉じていた

 

悲鳴だって聞こえたけど、聴こえないふりをした

 

だけど、もう私と猫だけの世界

 

もうこれ以上、目を閉じている必要はないのだから
 
 

「アリス」
 
 
 
そろそろ、目を開けてしまおう
 
 

そうして
 

 
目を開ければ、私はチェシャ猫に食べられてしまうのだ
 
 

ああ、こんなにも猫が近くにいる
 
 

     
わかっていたのだ、そんなこと <<目を閉じて、耳を塞いで、命を消して>>