「暇だなァー」

ティーカップを片手に溜息をついた。
アリスが不思議の国を去ってから随分と時間が経つ。

こうして公園でネムリンと一緒にお茶会を開いているのは、
またアリスが訪れてくるような気がするからだが、誰にも言わない。
まっ、来なくてもモチロンお茶会は開くけどな!

帽子屋は口を尖らせて、並々に注がれた紅茶をズルズル飲んだ。
 
今回のお茶会も以前と同じような惨状が繰り広げられていた。
テーブルの上には、乱雑に置かれた食器やお菓子の山が出来ており、
フォークやナイフが数えきれない程に刺さっている光景は、一種の芸術作品だ。
ひとつだけ違う事といえば、時間を刻む時計の音がすることだろうか?

そんな中、ネムリネズミは食器やお菓子を上手に避け、
フォークを握りしめたまま、すやすやと穏やかに寝ている。

そしてときおり、

「アリス・・・糖蜜あげる・・・」

などと、楽しそうな寝言を言っているのが聞こえていた。
そんな寝言が聞こえた帽子屋は、また溜息をついた。

アリスと糖蜜、贅沢な夢だ。
きっとアリスと一緒にお茶会している夢なんだろう。

目の前にあるケーキの小山を横へと押しやれば、
幸せそうな寝顔と小さな寝息に合わせて動くヒゲが覗いて見えた。

その羨ましい表情に、本日三度目の大きな溜息をつき、
藤の花の香りに誘われて飛んできた蜂に、ナイフを投げて追い払う。
蜂が何か文句を言っているが、この際気にしないことする。

別にネムリンが蜂に刺されたら大変だからじゃなくて、
自分が刺されないようにしてるだけだからな!

誰に言い訳するわけではないが、
そんな事を心の中でわめきながらも、今度はフォークを投げた。

帽子屋のお陰で蜂に刺される事は無かったが・・・
運悪く蜂が避けたフォークはネムリネズミに命中、つまり刺さった。

「あっ・・・悪ィ、ネムリン」

うっすらと目を開け、夢から半分だけ出てきたネムリネズミは
手に握っていたフォークをのろのろと前へ突き出す。

ブスリ。

「ギャアアア!!ネムリンっ!俺はケーキじゃないって!!」

手に刺さったフォークを勢いよく投げ飛ばす。
持っていたティーカップはひっくり返り、服はずぶ濡れ状態だ。

「たっく、いつも言ってんだろ!ちゃんと目ェ開けて」
「アリス・・・また来て・・くれるかな・・」

「・・・そりゃ、アリス次第だろ」

ネムリンの唐突な問いかけに口を閉ざす。
服をナプキンで拭きはじめたが面倒なのでやめる。
薄っぺらいナプキンで拭いたところで服はびしょ濡れだ。

「・・だけど・・僕はまた会えると・・思っ・・・」
 
言い終わないうちにテーブルに突っ伏すネムリン。
また夢の世界でアリスに会っているのかもしれない。

「そーだといいなァー」

まあ、俺もまた会える気がするけれど。
紅茶の染みたナプキンもティーカップも放り投げて、
ここには居ないアリスに向かって叫ぶことにした。

「アリスー、早く来ないとお茶会終わちゃうからなー!」

   
糖蜜の夢 <<蜂蜜色の夢の中でお茶会を>>
  ++++++++++++ 追加加筆しました。 原作のヤマネのお話に糖蜜の井戸が登場しますね。 糖蜜の名前はこの話より付けてみました。 甘ったるいイメージです、嫌ですね(爆)