「今日からお前はりっぱな、つぶあんぱんだ!」

出来立ての香ばしいあんぱんの匂い。
そして、その言葉がこの世に生を受けた瞬間だった。

「我らは誇り高き、つぶあんぱん!
 西洋かぶれのこしあんぱんなど、あんぱんにあらず!!」

おーっ!!

我らは誇り高きつぶあんぱん。
西洋かぶれの中途半端なこしあんなど、我らの敵ではない。

自分と同じ新しき仲間と共にそう胸に誇りを持っていた。
そう・・・あの日の出来事までは。


珍しく日が昇るまえに目が覚めた。
まだ誰も起きている気配は無い。

静かに店の外に出てみると、
噴水の目の前で一人のあんぱんが体操をしていた。

「お早いですなぁ」

熱心に体操をしているあんぱんに近づき挨拶をすると、
あんぱんは爽やかな笑顔で挨拶を返してきた。

朝日に輝く程の眩しい笑顔だ。
健康な艶光はパンの命と言っても過言ではない。
 
どうやら話を聞くと、そのあんぱんも同じように
珍しく朝早く目が覚めた為、体操をしていたとのことだ。

「それは奇遇ですな。こんな日が昇る前に出会うとは。
 といっても、ここからは太陽は見えませぬがなあ!」

「「あっはっはっはっは!」」

彼はなかなかパン気のあるあんぱんで、
話し合う内に意気投合し、毎朝友情を深め合ったものだった。

だが、それも長くは続かなかった。

いつものように二人で熱く語りあっていると、
背後から殺気を感じたと同時に刃物が勢いよく振られたのだ。

「危ない!」

突然の事態に友の叫び声と横に押し倒された衝撃以外、理解できなかった。
ハッと我に返ると急いで起き上がり状況を見た。

すると、友は体をばっさりと切られ膝をつき、
その目の前にはつぶあんぱんが日本刀を構えている。

「しっかりいたせ!つぶあんどの!!」
 
友に駆け寄って腕にがっしりと抱きかかえた。
他のつぶあんぱんも周りを囲むようにして刀を突きつけてくる。

「そいつは、我らつぶあんを探る為のスパイだ!
 巧妙に仲間の中に紛れ込んでいたとはいえ、
 このつぶんあんぱんの目はごまかせんぞ!」

仲間の一人のつぶあんぱんは、叫ぶようにそう言い放った。
だが、それよりも友が嘘をついていた事が衝撃的だった。

「おぬし、こしあんだったのかっ!?」
 
ショックを隠しきれず腕の中の友を見返すと、
友はぜいぜいと息をついてこう最後に言ったのだ。
 
「お前と、ただ話したかっ・・・だけっ・・・」
「こしあんどの――――!!」



「友の裏切り、別れ・・・今思い出しても涙が!」

握りこぶしを振りながら、つぶあんぱんはそう語る。
滝のような涙が流れそうに話しているが、涙は流れていない。

パンゆえに涙が流せないのだから仕方がないのだろう。
それに涙を流さなくとも十分に暑苦しいぐらいの熱意を感じる。

「わかっていただけますかっ!猫どの!!我らのこの気持ちを!!」

つぶあんぱんは勢いよくチェシャ猫を振り返る。
テーブルの上で丸まっている猫は諭すように言った。
 
「それがあんぱんの生きる道だよ」
「猫どの・・・!!」

よほど、チェシャ猫の言葉に感激したらしく、
つぶあんぱんは号泣して腕を大きく広げ・・・

「チェシャ猫なに話してるの?」

ドガッ!! 

猫はひらりとテーブルの上から降りてアリスの横に寄り添う。

熱い抱擁をかわされたつぶあんぱんは、
テーブルを巻き込むようにして無残にも倒れた。

「あんぱんの話だよ、聞くかい?」
「ううん、遠慮しとく・・・」

もうあんぱんはうんざり。
これ以上あんぱん見てたらおかしくなりそう。

そう言うとアリスはぐったりとして顔を横に振った。

「そうかい?」
 
あんぱんって、おいしいのにね。
     
それがあんぱんの生きる道 <<汗も涙も流れないそれでも我らは生きている>>
  ++++++++++++ パン気=男気ぐらいに取ってください で。えー、やってしまいました。 汗と涙と友情そして裏切り(笑) 暑苦しいのが書いてみたかったんです。 たぶん、あんぱん話はもう書かない。うん、たぶん。 密かに仲間のつぶあんぱん、間違えて仲間を切ろうとしてたのに気付きましたか? つぶあんはいざというとき、失敗するものですからね。