キィ


キィ、キィ・・・


青で塗りつぶされた
小さな公園は青と灰色の世界

ブランコを微かに揺らして座るアリスの側には、
青く冷たく、もう動くことのない子供が静かに横たわっている

それは望んだ幸せとは違うだなんて、もう二度と分かりはしない


「ねえ、あなたは幸せ?青くなったんだよ、ねえ・・・」


どうして返事してくれないのかな
アリスは壊れたテープのように繰り返し呟く


「アリス」
 

僕の存在に初めて気づいたかのように、
アリスは正面に立つ僕を緩慢な動作で目に映した

その瞳に命の輝きはもう存在しない
ただ、暗い闇が僕を見つめる

「・・・灰色・・・」

まるで恐ろしいものを見てしまったような、
そんな震える声で僕の灰色をアリスは見つめた
 

「なんで、チェシャ猫は青くなってくれないの・・・?」


ふらりとブランコから立ち上がり、
アリスは手に握っているカッターを躊躇い無く僕に突き立てた

何度も何度もカッターが突き刺さり、フードに赤い血がじわりと滲む


「私は幸せなのに!なのに何で・・・・!!」
 

ああ、そうか

僕が青くならないことを恐れているのだね
猫はどこまでいっても、灰色の猫にしかならない

けれど

怯えるように泣き叫ぶアリスの手首をゆっくりと掴み、僕は抱き寄せた
幼い頃のアリスと同じように背中をぽん、ぽん、と優しくたたく


「君は幸せだよ」 


その言葉に暴れるのをぴたりとやめて
アリスは僕の顔を恐る恐る見上げた


「本当・・・?」


安心したかのように、ふわりと笑うアリス
それは何処までも無邪気で何処までも闇は深くて


「もういいんだよ、アリス」


たとえ、本当の幸せでないとしても
君がそれを幸せだと言うのなら

君が歪むことを望むなら


「もういいんだ」


だから、もう僕は君の歪みを吸い取ることも無い
悲しいのだけれど、僕は口をにんまり上げて笑いかけた

猫は悲しくたって笑うしか他ならぬのだから


アリス


僕らのアリス


いつまでも僕らは青い涙の幸せを君に

 

だって幸せなんでしょう? <<ええ、わたしはしあわせ。しあわせのいろをしているもの>>