淡い淡い薄紅色の海の中
息を止めて私は願いを込めた
 
 
pink gray pink white pink
淡い桜色の幻を夢見る
 
 
 
「もうさよならだね」
 
「サヨナラ?」
 
 
腕の中に収まった猫は私の視線の先を追って見上げる
 
桜吹雪。
 
特別に強い風が吹いてる訳でもなく、
はらはらと淡い花びらは舞い落ちる。
 
綺麗だけれど、もうすぐ終わりだという証。
その儚さゆえに美しいと言えるのだろう。
 
足元は花びらで埋まり薄紅色の海が出来上がっていた。
どこを見渡そうと桜の木に囲まれて限りは無い。
 
頭上から降り注ぐ花の雨の中にこのまま立ち止まっていれば、
自分もこの淡い色合いの海に埋もれてしまえるのだろうか。
 
 
「僕はサヨナラしないよ」
 
「・・・そうね、私の猫だもの」
 
 
そうだよ、僕らのアリス。
静かにそう告げた猫はそっと腕に擦り寄った。
灰色のフードは少しくすぐったくて、とても優しかった。
 
変わらない、猫とずっと一緒に私は生きていく。
もう大切なものを無くさないように、見失わないように。
 
 
「ありがとう、チェシャ猫」
 
 
ぐるぐると喉を鳴らす猫の頭の上にも花びらが運ばれてきた。
散歩道を戻るように足を進めると花びらはふわりと風に舞った。
 
花びらを絡めたその風はゆったりと穏やかに桜の海に溶ける。
ふと振り向けば、薄紅色の世界に僅かに白い影が見えた気がした。
私の心の幻影が創り出したものでも、もう構わない。
 
 
ありがとう、私の愛する人達
 
 
目を瞑って息を止めて願いを込めて、私は風を受ける  
 
 
     
桜吹雪の海の中で <<とめどなくふりそそぐ>>