「アリス、リボンがほどけているよ」

「えっ、どこ?」
「後ろのリボンだよ」

チェシャ猫が指をさしている所を見れば、
エプロンドレスのリボンがほどけていた。

「いつの間にとれたのかな・・・」
「むすんであげるよ」

そう言うと、チェシャ猫は私の背後にまわる。

「じゃ、お願いね」
 
私はしばらくリボンが結び終わるのを待った。

「できたよ」
 
猫ののんびりした声がして
私はくるりと振り向いてお礼を言った。

「ありがと、チェシャ猫」

その言葉に猫はいつもよりにんまり笑った・・・かと思うと、
おもむろに手を伸ばして、私の髪を一房掬い上げた。

「?」

髪なんか持ってどうするのだろう。
そのまま、じいっと猫の手を見つめた。

ほっそりとした指・・・羨ましい。

チェシャ猫の指って思ってたより、華奢だったのね。
だけど、しなやかで、少し骨ばった男の人の指先。
ぼうっと、頭の隅っこでそんなことを考えていた。

そして、その指先に、救い上げられた私の髪に、
何故そんなにも近くに猫の顔があるのだろう。

私はチェシャ猫が自分の髪に、
口付けをしているこの状況をやっと理解した。

「ちょっ・・・チェシャ猫・・・!!」

離れようとしても、髪を猫が持っているので離れられない。
顔を真っ赤にして暴れだした私に猫は首をかしげた。

「どうかしたかい?」
「どうかしたって、こっちのセリフ・・・」
「僕はアリスの髪好きだよ」

「えっ?」

「寝癖がついててもね」

・・・・・。

そういえば今朝、

『寝癖がなかなか直らないし、こんな髪嫌だ』

って確かに言ったけれど。

「もうっ、チェシャ猫!」

首を傾げたままの猫の手を振り払って、そっぽを向いた。

チェシャ猫に髪とはいえ、キ・・・ううん!
そう、いつも通りチェシャ猫がじゃれてるだけよ!!

赤くなった顔を冷ますように自分に言い聞かせた。
・・・耳まで赤くなっている気がする。

当分、恥ずかしくてチェシャ猫の顔をまともに見れない。
 
    
ほどけたリボンとそのゆびさき <<愛するきみにくちづけを>>
  +++++懺悔室+++++++ まず第一に、チェシャ猫は口を閉じれるかが問題だと思います。 それに、亜莉子も指の観察したところで開き直りそうです。