灰色の猫は笑うだけ





※Gのつく生物が生理的に駄目な方お戻り下さい、責任は取れません。



俺はアイツが苦手だ。
別に怖いとか恐ろしい訳じゃない、本当に苦手なだけだ。

あの人間を嘲笑うかのようにして空中を飛んでみせたり、
無駄に光沢がかった体と必要以上に長い触角を小刻みに動かすあの動作に
生理的嫌悪感を感じたとしても、気持ち悪いと思っても怖いわけじゃない。

断じて、怖いわけじゃない。

そして先程まで読んでいた新聞紙を丸めて俺は対峙している。
いつアイツが動くか分からないからだ。掌に滲んだ汗は新聞紙を湿らせる。

台所のスプレーを取って来ようかと考えたが、その間に逃げられてしまうだろう。
だいたい泡で捕まえるタイプは瞬殺だとしてもアレを手で掴むなんて尋常じゃない。
裏っ側に付いてるアイツが落ちたらどうするつもりだ、やっぱり叩くしかない。

アイツに悟られないようにじりじりと距離を縮めてゆく。

亜莉子の猫・・・名前なんだったけなあ、ああ聞いてなかった気がする。
とにかく灰色の猫は対峙する俺を完全に無視して食卓の椅子の上でのんびりと寝ている。
現代にそうネズミはいない分、違う生物(特に目の前の)でいいから捕まえてくれないかと、
淡い期待を視線で猫に寄せてみるが、実際にはただ笑ったような顔をして動きもしない。

笑った・・・猫に嫌味なんか言ってるから笑われた様に見えるのだ。きっとそうに違いない。
そんなことより、俺は今目の前にいるコイツを倒すのが先決だ。そう亜莉子が来る前に。

「叔父さーん、私の猫・・・」

あまりに真剣に考えていた所為で、亜莉子が扉を開けて入ってきたことに気づかなかった。
アイツはまるで扉が開く機会を狙っていたごとく扉へと一目散に駆けた。間に合わない。

「亜莉子、扉閉めろ!」
「え?何・・・きゃあっ!」


パンッ、
乾いた音はこの長く短い戦いに終止符を打った。


「あー、まだ半分しか読んでなかったのに・・・」
「・・・・・・・」

手に持ってるアイツを倒した雑誌を少し嫌そうに持つ姪を呆然と見た。
てっきり悲鳴でも上げるかと思ったが、冷静に持っていた本で亜莉子は叩いた。

「お前、怖くないのか?」
「ううん。怖いけど・・・だって前の家よく出たんだもの」

我ながら随分と気の抜けた声が喉から滑り落ちた。
前の家・・・そうか、そりゃそうだ。よく考えてみれば当たり前だ。
母親との二人暮らしともなれば、必然的に倒すのはどちらかに限られる。
しかも市営アパートともなると建てられてからは古いし、出る回数もきっと多かったのだろう。

「なんだかなぁー」

心配したことにも真剣に悩んだことにも自分の馬鹿さ具合に笑えた。
その場にしゃがみ込んで、がしがしと頭を掻くと足元にあの猫が近づいてきた。
これこそ猫に笑われて当然だったな。今ならいくらでも笑ってくれという感じがする。

「あれ、もしかして叔父さん。怖いとか・・・?」
「んなわけない、嫌いなだけだ!」


にゃあーん、灰色の猫が鳴いた。


悪循環思考回路 <<叔父さんって繊細ね!>>
++++++++++++ 前半書くのが本当に楽しかったなんてとても言えない。 あと余談ですが、糖蜜は我が家での虫発見器です。 小さな蜘蛛からGのつく生物だろうと発見するのは必ず糖蜜です。 はっきりいって嬉しく無い。だけど何気なく感じるんです、虫。 嫌ー!!ブリ嫌いなんだよ!!(そんな話書くなよ)