「ねーチェシャ猫、私何か忘れてるのだけど思い出せない」

チェシャ猫の手を握って、私は当てもなく歩き続ける
私の知らない何処でもなくて、何処にでもあるような道

「大切なことだった気がするの」
 
だけれど、それが何かもう分からない

自分が忘れてしまったのか、
自分以外の他の皆が忘れてしまったのか

それすら私にはもう思い出すことはできない

「思い出すことは難しいし大変だからね」

にんまりと笑う猫はそう答えて、
ゆったりと私の歩みに合わせて歩く

いつまでも歩き続ける道は
いつか終わりがやって来るのだろう

それが私にとって何を意味するかなんて

「そういえば、チェシャ猫は」

ふと、思い出した
忘れたことを思い出したわけじゃ無い

「チェシャ猫は知ってるのよね」

猫は私より前を、先を歩いて立ち止った
私が足を止めたのだから、ただそれだけのことだけれど

「何をだい」

振り向いた猫は、はぐらかす様にして私に尋ねる
 
どうせ答えてくれはしないのだろう
猫はアリスを導く者と決まって・・・


――猫は何に導く者で私は何故導かれているのだろうか


猫の顔を見つめてみるけれど、何も思い出せない
ただ、にんまりと笑う猫の顔が目に映るだけで

それは本当に大切で忘れてはいけないことだった
 
どこかで、何か置いてきてしまった気分
そう、心の隅っこの何処かその辺に閉じ込めたように

「さあ、アリス歩き続けよう」

くいっと、猫が軽く手を引いて私の意識は中断された

終わりが来ればきっと分かるのだろう
それまで、こうして私は猫と何処までも歩き続ける

     
終わりの無いお話 <<それは終わりが私に訪れるいつかその日まで>>
  ++++++++++++ 「僕のアリス」ENDの続きっぽい感じでした。 前に書いたのと似たような感じの話だったりして。