猫の月光浴









「やあ、アリス」
「やあって・・・そんな所で何してるの」

一階の屋根の上に猫が器用にちょこんと丸まっていた。
落っこちそうな光景だけど、猫はどこか安定した感じだ。

「月光浴だよ」

猫の声がしんと夜の静寂に響く。
ベランダから見下ろす風景はいつもと違って、
まるでいつかの猫と二人きりだけのように静かだった。

「アリスもコッチにきたらどうだい」

そんな違和感に首を傾げる私に猫はにんまりと促した。
折角の誘いだけど、生憎そんなにバランス感覚は良くない。

「無理よ。だって・・・わっ?!」

猫は音も立てずにベランダに飛び移ってきたかと思うと、
私が文句を言う前に脇に抱えてさっきまで居た場所に戻った。

全く人の話を聞かないんだから、本当に。

「三日月・・・チェシャ猫みたい」

三日月だ、まるで猫の口のような月。
白く輝くその姿は細長く、弓なりに反っている。
満月でもないのに夜空を明るく照らしていた。

「おや」

猫は言われて初めて気づいたらしく、三日月を見上げた。

「歯がナイね」
「月に歯があったら怖いって」

まとの外れた猫の返答に力が抜ける。
この際どうでも良さそうな感じだけど、
この抱え方を直すか降ろして欲しいところだ。

どことなく悔しいので、唯一自由な手を伸ばし猫の喉を摩ってみた。
ぐるぐると低い音が空気を小さく震わせる。

・・・結局チェシャ猫喜ばせてるだけじゃないの。

ぱたりと無駄に頑張って伸ばしていた手を元に戻した。
諦めてこのまま猫の脇に抱えられておこう。
降ろされてもそんなにバランス良く保てそうに無いし。

「月って本当は遠いのよね」
「僕はそんなに遠い所にはいないよ」

「月じゃなくて、チェシャ猫だものね」
「そうだよ、アリス」

じゃあ月よりも猫のほうがずっと素敵だわ。
そう言って微笑むと、猫の喉から心地よい音がいつまでも響いた。
<<月よりも何よりも>>
++++++++++++ 後ろが三日月じゃないなんて気の所為ですよ。以下元文(?) チェシャ猫の口みたいなお月様ー!歯がないね。ボケと突っ込みで。 文のレベルじゃなくて単語の勢いです。