名も無き星に願いを







「アリス、外に出てごらん」
「?」

ベランダを見つめていたチェシャ猫は、
そう言うと私の手を引いて、ベランダに私を連れ出した。

冷たい夜の風が頬を撫でる。
いったいどうしたんだろう・・・?

チェシャ猫が上を見上げているので
それにつられて私も上を見上げてみた。

「わぁ」

それは私の目に飛び込むように映った。

真っ暗な夜の空にちりばめられた青白い光
眩いばかりの星の洪水だった。

「こんな場所でも星・・・見えるんだね」

星を見つめたまま私は言った。

冬の冷たい外気は星達をくっきりと映し出している。
息が白くなる程の、冷たさだ。

こんな薄着じゃ、風引いちゃう・・・
ちらりと横のチェシャ猫を見ていい考えが浮かんだ。

「ね、チェシャ猫。こっちきて」
「なんだい、アリス」

猫を手招きして、猫を私の後ろに立たせる。

そうして、猫のあごの下に潜り込み、
猫の手を自分の目の前でクロスさせた。

即席チェシャ猫コートの出来上がりだ。

「猫の毛皮だね」

理解したように猫はにんまりと頷いた。

うん、暖かい。
やっぱり猫って高体温ね。

猫に背中を預けて体の力を抜くと、
慣れ親しんだ獣の匂いがした。

チェシャ猫で暖を取りつつ星空をもう一度見上げる。

これだけ綺麗に星が見るのだから星座も見えるだろう。
そう思って、星座を探してみるとすぐに見つかった。

「たぶんあれが、オリオン座。
 冬の星の王様って呼ばれてるんだって」
「オリオンザ?」

指差した方向を見て、
チェシャ猫は首を傾げた。

「じゃあ、あれはアリスの星だね」

猫は空にある小さく輝く星を指差した。

「ふふ、じゃあ、隣のはチェシャ猫座だわ」

いつもの、おかしな会話。
だけど、嫌じゃない。

じっと空を見上げたまま私は思う。

死んだら人は星になるっていわれてるけど、
お母さんもシロウサギも星に・・・なれたのだろうか。

ふいに少しだけ、
ほんの少しだけ不安に思った。

「なれたと思うよ」
「えっ?」

驚いた私は、チェシャ猫の顔を見上げた。

「アリスがそう言うんだからね」

君が望むなら、と付け足して猫は
いつものようににんまりと笑った。

「・・・うん、私もそう思う」


きっと、きっと、この星の海のどこかに。



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