―――逃げられるものなら、走ってお逃げ



The truth is not sweet like me. 
真実は僕の様に甘くはないのさ



「なんでもないです!」

アリスはそう叫ぶと振り返ることも無く、
茜色に染まった廊下を勢いよく駆け出した

廊下は走るものではないよ、

そう嗜める言葉を口にしようかと考えたけれど、
アリスが自分を拒否した事がまず気に掛かった

何故だか分からないが、僕から逃げようとしている事は確かだ
そんなに駄目だったのだろうか、話しかけたことが

きちんと名前を名乗ったし、アリスを食べようともしなかった
それとも寝起きのアリスはいつもこんな感じなのかもしれない

適当に納得できることを考え終えて当のアリスを見れば、
アリスの背中が小さく見える程になってから
ようやく走るのをやめてアリスは振り向いた

息が上がるほど走ったアリスは
荒く肩で息をつきながら僕を凝視する

戻ってくる気になったのだろうか、

この廊下には終わりなど在るわけも無いし、
果てしなく走り続けるだけ無駄というものだ

おや、まだ走るのかい

予想に反して、またアリスは走りだした
まだ全力で走る元気があるらしい。元気だねアリス

にんまりと笑みを深めてアリスが遠ざかるのを見送る

それに僕らの存在(僕だけかもしれないが)を否定したところで、
現に僕らは存在しているのだから、事実だけはどうにもできない

それだけは僕らのアリスだからと言っても無理なことさ

そうしてにんまりと笑っている間にも、
アリスの後姿は見えないほど小さくなり、ついに視界から消えた

廊下に立っていてもアリスはもういない
急がなければならない、残された時間は限られているのだから
アリスの消えた廊下へとゆったりと足を動かす


静かに夕日は僕らを染めて、アリスは僕から逃げ出した


「今だけだよ、アリス」


僕から逃げることはできても、
もう君は真実から逃れることは許されない


     
もういいかい、僕に答えておくれ <<さて、僕もアリスを追いかけようか>>
  ++++++++++++ 猫の紳士な基準は食べない・脅さない・微笑まない。 この3つです(嘘)