暮れる夕日を背にして、
私は叔父さんと一緒に買い物帰りの道を歩く

私の手に握られているスーパー袋は1つで、
とても軽く片手で上に持ち上げられそうな重さだ。

そして数歩前を足取り軽く進む私の後ろには、
叔父さんが両手に重たそうな袋を持っている

持つといえば、別に大丈夫だとか言って持たせてくれないのだ
叔父さんったら、変なところで意地張っちゃうんだから。

ふと懐かしい匂いが鼻を掠めた

「叔父さん、もうすぐ咲きそうだね」
「?ああ、本当だな・・・」

何処かの家の垣根から、道路へと枝をしならせる白木蓮

ふうわりと、小さく綻んだ花の蕾から淡い匂いが漂う
花が咲けばもっと芳しい匂いがそこらじゅうに広がるのだろう

花の真横を通り過ぎれば、瞬間に優しくて痛みを伴う記憶が蘇る
 
ひんやりとした空気と赤く腫れた私の頬
黙って幼い私の話を頷いてくれた叔父さん、そしてシロウサギ

決していい思い出ばかりではないけれど
心の傷はまだ癒える事はなく私を蝕んだままだけれど

だけど大丈夫。
もう、大丈夫だから。

「また連れて行ってくれる・・・?」

くるりと後ろ向きに歩いて私はそう静かに尋ねてみた。
 
「・・・まあ、亜莉子が行きたいんだったらな・・・」

何処に連れて行って欲しいかなんて、
言わなくても私の叔父さんには伝わったようだ。

少しぶっきらぼうな声で答える叔父さんの顔を見つめるけれど、
夕日が眩しくてどんな表情をしてるのかは分からなかった。

だけれど、その顔はきっと照れてるに違いない。
 
「ほら、後ろ向きに歩いてら転けんぞっ!」
「はーいっ」


また、いつか

また、あの場所で懐かしい話をしましょう



     
蓮の <<記憶に埋まった昔々のお話>>
  ++++++++++++ 元Web拍手でした。 この二人がセットになると家族モノしか思いつきません。