「もう僕らはアリスに必要ないみたいだよ」
 
 
光に照らし出された法廷の中央で僕はそう告げた
 
ざわざわとざわめきで満たされた真実の法廷には、
不思議の住人たちのほとんどが集まっている
 
「でも、私はアリスが心配だわ!」
 
女王は鎌を持って椅子を倒さんばかりに、勢いよく立ち上がった
その横でウミガメモドキが女王をなだめようとしている
 
「アリスは自分で受け止めると決めたんだ」
「でもっ・・・」
 
私たちにはアリスが必要だわ、と小さく呟き、
女王は目を赤く潤ませて、ぎゅっと鎌を握り締めた
 
皆アリスが大好きだからね
僕らにとってアリスは大切な存在
 
僕らの幸せと存在の意味を与えてくれるただ一人のアリス
 
だけれど、それよりもアリスの幸せが僕らの絶対条件
それは住人の誰もが当たり前だと感じているだろうに
 
女王の気持ちは分からないでもない
彼女もまたアリスを愛しているには違いないのだから
 
『わしらが存在しないことこそが、アリスの幸せを意味する』
 
そう、あれはグリフォンの言葉だった
 
歪んだ僕らが消えれば、アリスは本当に幸せを手にするのだろう
いつまでも僕らがアリスの歪みとして残るわけにはいかない
 
僕らはアリスの幸せの為だけに存在する
それ以上でもそれ以下でもない
 
アリス、僕らのアリス
 
君は不思議の国の扉を再び開き、
僕らのもとに帰って、そして去っていった

僕らはいつだって君の幸せを願うよ
それが僕らが消えてしまうことでも
 

 
おかえりなさい、そしてさよなら
 


ざあぁっ・・・・・
 
ざわめくような風が、私の髪を優しく撫でてゆく
 
「あれ・・・?」
 
頬に手をやると、涙がひとすじ流れていた
 
なぜだろう
 
この胸の奥が苦しくて悲しい
 
    
見果てぬ夢に終わりを告げよ <<君が悲しむと知っても僕らはこうするしかないのだ>>
  ++++++++++++ 亜莉子の叶うことのない夢。 それは、いつまでも不思議の住人といること。 その夢はいつか終わりを告げるということでした。