どこまでも赤い空に赤い血の海
 
 
それ以外何も見えるものはない
 
 
「ねえ、チェシャ猫。どうして海は溢れてしまったの」
 
 
猫の肩から猫の顔を覗き込む
 
 
だけど猫はにんまり顔のまま答えない
 
  
女王の城も、公園も、学校も、何もかも沈んでしまった
 
 
そのうち、私もこの世界も赤い海に沈んでしまうのだろう
 
 
声を枯らしたって涙を枯らしたって、心の傷は枯れることはないのだから
 
 
私は猫のフードをそっと握り、猫に話しかけた
 
 
「ねえ、チェシャ猫」
 
 
「なんだい、アリス」
 
 
「降ろして」
 
 
「・・・・・・」
 
 
「お願い」
 
 
猫は困ったように、黙り込んだ
 
 
そして長い長い沈黙が続き、猫はいつものように言った
 
 
 
「・・・・僕らのアリス。きみが望むなら」
 
 
 
猫は肩からゆっくりと私を降ろし、私を海の上に立たせた

 
とたん、私は海の中に沈み
 
 
視界は赤に染まり泡に包まれる
 
 
どこまでも底無しの海に沈んでいくのだ
 

そして、どこまで沈めばこの傷を感じなくて済むのだろうか
 
 
ふと横をみれば、ばらばらになった私の体がいた
 
 
 
おかえりなさい
 
おかえりなさい
 
おかえりなさい
 
おかえりなさい
 
 
 
どこまでも、さざめくような笑い声をあげて一緒に沈んでゆく
 
 
だんだんと意識が遠のいてきた
 
 
今、叫べばチェシャ猫が助けてくれるだろう
 

だけど、このままでいい

 
傷つきすぎて、痛いのか苦しいのかもうわからないから
 
 
     
を枯らしたってを枯らしたって <<きずはわたしをのみこんだ>>