裏表の無い金貨









日差しも少々強くなるような午後。
バルコニーの隅にうず高く詰まれた首無し死体が目立つ。
時折蔦でできた日陰に移動しようと蠢いているのが伺える。

「賭けをしなさい、ビル」
「なにを、でしょうか」

声高な少女の声に真実の番人は意識を部屋の中に戻した。
自信に満ちた声の主は優雅に足を組んで椅子に座っている。
その威厳に満ちた態度とは女王として申し分無い。
ただ、話の内容は気まぐれによるものだろう。

華奢なティーテーブルの上に転がる金貨が一枚。
白い指先に拾われた金貨は太陽の光を受けて煌めく。
どうやらコインで賭けをするつもりのようだ。

金貨は空中で綺麗な円を描き、吸い込まれる様に手の中に消えた。

「表」

淡い桜色をした小さな唇に微笑を浮かべる。

「アリスが私だけのものになるか、
 私が勝ったらそのか細い首を刈りとらないで差し上げるわ」

負けるつもりは当然と無いらしく、
かといって自身が負けた場合でも勝者の首を刈るルール。
なんとも独裁的で何処までも女王陛下らしいと小さく笑う。
無論、この番人が小さく笑ったと言っても誰も見分けはつかない。

「では裏で」

あっさりと考える必要も無く答える。
選択肢は最初から裏と決まっているのだから。

小さな静寂が訪れ、

「首が繋がったようね」
「そのようで、陛下」

首を刈る機会を逃してしまったと愚痴を洩らす彼女に、
アリスはいいのですか、とぽつりと囁いてみる。

「もちろんアリスは私だけのものよ、私だけのアリス!」

一変して満足そうな表情を浮かべ、
アリスの為に鎌を磨き上げると言って部屋を去っていった。

ティーテーブルに残された一枚の金貨。

真実の番人であることを忘れては困るもの
私は"それ"の真実を知っているのですよ、女王陛下。


裏表の無い金貨 <<お望みのままに、女王陛下>>
  ++++++++++++ 女王様を中心に城の世界は回ってます。 それでいいのです。いや、それがいいのか(何言ってるのか)