「アリスが帰ってくるんだってさ」
「僕らのアリスが戻ってくるんだ!」

アリス、アリスと不思議の国の住人達はざわめき立ち、
そこ等かしこでアリスの名前が飛び交っているのが嫌でも耳に入ってくる。

アリスが帰ってくる

そりゃあ、自分にとっても嬉しいことだ。
僕らはアリスが好きで好きで堪らないのだし、
自分もその例には漏れないのだから。

だけど

「お茶会に遅れなかったらの話だよ!」

がちゃん、とテーブルに両手を叩きつければ、
卓上に乗っかっている時計は震え、紅茶は勢いよく波立つ。

いつまでたっても終わらないお茶会に、
いつまでたってもお茶会に来ないアリス。

どちらにしたって迷惑極まりない。
ため息をついて、椅子に背を預け腕を組んだ。

ああ、お茶会だっていうのになんて気分だか!

目の前にあるケーキをフォークにぶすりと刺して、一口食べる。
ついでにカップの中に角砂糖を五つほど入れてかき混ぜた。

元より呼ばれておきながら、
お茶会に来ないとは何て礼儀知らずなアリスだろうか!

・・・大体そう、あれはそうだ。
今から三時になる一日前の三時の話――



「ぼうしやはなんでぼうしをかぶってるの?」
「帽子屋だからに決まってんだろ・・・」

テーブルクロスにしがみつき目を輝かせて、
アリスはどうでも良いような質問をしてくる。

そんなことも分からないなんて、どこまでアリスは無知なんだろうか!
次は眠っているネムリンの前に立つとアリスは同じようにまた尋ねる。

「ねえ、なんでネムリネズミはねむっているの?」
「それはね、僕が・・・ネム・・・」
「ねぇ、なあに?」

ぱたりと言葉を途切らせて眠り出したネムリンを、
アリスはゆさゆさと揺すって質問の答えを聞こうとしている。

「こら、アリス!ネムリンにちょっかい掛けてんじゃ・・・」
「アリス、こっちにおいで」

声に振り向けばシロウサギが立っていた。

一瞬何故シロウサギが居るのか考えたが、なんてことはない。
アリスがここに居るのだから一緒にいるに決まっている。

「はぁーい」

間延びした返事をしながらアリスはシロウサギに抱きつく。
それを愛しそうに目を細めてアリスに微笑むシロウサギの姿。

その幸せそうな光景は、少し羨ましく感じるくらいだ。

何と言ってもアリスのオトーサンの代わりに
シロウサギが存在するのだから、アリスは幸せだろう。

所詮、俺らはその隙間の埋め合わせの存在に過ぎない。
それは別に嫉妬している訳でもなく、本当なだけに仕方ないのだ。

「明日お茶会に来たかったら招待しても・・・ってコラくっつくなって!」
「ありす、うれしい!!」

まぁ、それで俺も十分だから結局問題はないけどな。



「むにゃ・・・・」

ぐらり

慌ててネムリンが椅子からずり落ちそうになるのを見て支えた。
本当に俺が居ないとネムリンは何もできないのだ。

そう思うとなかなか誇らしい気分になってきた。
ようやく角砂糖の溶けたカップに口をつけて優越感に浸る。

「んー?・・・もう少し甘くてもいい気がすんなァ」

あと二個ほど、角砂糖を足してかき混ぜる。
色が白くなってきた気がするけれど、そのくらいお茶会だ。気にはしない。

頬杖をついたまま、くるくるとスプーンをかき混ぜれば、
折角の優越感に混ざるようにして、またアリスに対する感情が戻ってくる。

アリスが帰ってくるまで、お茶会にやって来るまでに、
あと何日、何時間、何分、何秒待てばいいんだか!

「もうすぐ・・・来るよ・・・」
「そうそう、もうすぐ・・・ってネムリン、いつの話を」

 
     
角砂糖の城 <<すぐに溶けて判断がつかなくなるのさ>>
  ++++++++++++ 別に帽子屋は甘党だとかそんな設定はありませんよ。 この二人の話になると甘い(食べ物)のばかりですね(苦笑)