猫は考えた。
アリスが最近かまってくれない。
何か忙しそうにしているから、邪魔はしたくないが・・・。
これならアリスも気に入ってくれるだろう。
「くしゅんっ」
だんだんと冬の気配が近づいている。
そろそろ、毛布でも出したほうがいいかもしれない。
チラリと横を見る。
ベット脇のチェシャ猫専用のスペースは空だ。
ここ二、三日チェシャ猫の姿を見ていない。
どうせ猫のことだからすぐ戻ってくるだろう。
だいたい、いつもチェシャ猫は私が・・・・
「いけない、いけない」
もうすぐテストだし、そんなこと気にしてちゃだめだ。
私は机に向かって勉強を再開した。
「でも、チェシャ猫どこに行ったのかしら」
勉強も一段落つき、背を伸ばしながらつぶやく。
最近忙しかったから、帰ってきたらもっと取り合ってあげよう。
そんなことを考えていると、ふいに、後ろから声がした。
「呼んだかい、アリス」
チェシャ猫が帰ってきたようだ。
くるりと椅子を回転させ、チェシャ猫の方を向いた。
「お帰り、チェシャね……コオォォ!?」
口を開いたまま、亜莉子はチェシャ猫を凝視した。
「ちぇ、チェシャ猫・・・それどうしたの・・・・!!」
「ソレ?」
チェシャ猫は相変わらずのんびりと答える。
「いや、だから・・・その、その・・・」
椅子から下りて、チェシャ猫に近づく。
おそるおそる、チェシャ猫のフードのソレを触ってみる。
・・・・引っ張ってみよう。
ぐいっ。
「痛いよ、アリス」
「本物・・・チェシャ猫、あなた長毛種だったの・・・・」
「チョウモウシュ?」
そう。
チェシャ猫(頭)のフードはまるでウニのように毛で覆われていた。
かろうじて、猫のにんまり顔が見えるくらいの。
チェシャ猫は、ああ、と納得したように頷く。
「もうすぐ冬だからね」
「いや、でも冬だからってこれは・・・・・」
普通、ここまで長く生えるものだろうか?
ペルシャ猫も裸足で逃げ出しそうなほどの長さだ。
もともと猫は裸足だけど。
亜莉子は、チェシャ猫を持ち上げて目の高さまで持ってくる。
フードの中を見ないように、気をつけながらフードのふちを見た。
どうやら、フードの中、ギリギリまで長い毛が生えているようだ。
喋るのに邪魔じゃないのかしら。
「もし、これで体があったらどうなってるの、チェシャ猫」
「猫は猫だよ」
冬毛だからね、とまったく返事になっていない答えを猫は返した。
もしかして、チェシャ猫(体)の方にもこんな風に毛が生えているのだろうか。
そんなことを考えていると、チェシャ猫が口を開いた。
「アリスは冬毛が嫌いかい?」
「えっ・・・・」
そう言うとチェシャ猫は、手から抜け出し、地面に転がり落ちた。
ころころと、マリモのようなチェシャ猫が足元を転がる。
「わっ、くすぐったいって・・・ちょっ、やめ」
ふわふわの長い毛が足をくすぐる。
チェシャ猫を捕まえようとしても、猫は上手にするりと手から逃れる。
「わかったからっ!ね、チェシャ猫お願いっ!!冬毛でもいいからっ!」
「・・・・そう?」
ぴたっ、と足元を転がるのをやめた猫はなぜか上機嫌そうな顔をしていた。
「亜莉子ー」
ふいに下から、叔父さんが呼んでいる声がする。
「あっ、はーい。チェシャ猫、大人しくしててねっ」
チェシャ猫を撫で、亜莉子は部屋を出て行った。
部屋に残された猫の頭は、ひとり呟いた。
「アリスの膝に乗せてもらえるなら、少しぐらい苦しくたって平気さ」
アリス、君の猫は独占欲が強いって知ってるかい?
冬毛は嫌いかい
<<冬の気配が君の足元に近づいた>>
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