「うさぎさんなんていないの」


何度も繰り返される言葉に混じる嗚咽。

涙の途切れない赤い目を擦り、
自身に言い聞かせるように小さなアリスは呟いた。

夕暮れに染まる神社の境内の片隅で
シロウサギを背にしてしゃがみ込むようにしてアリスは泣いていた。

強い拒絶。アリスのその姿にただ立ち尽くす事しか出来ない。
ついに不思議の国への扉は閉ざされてしまったのだ。


「アリス、君は何にも悪くないんだよ」


僕たちを否定する君は何も悪くないんだ。
君が本当は望んでいないことも理解している。

存在を否定されることはとても悲しいことだけれども、
それでも君が望み、少しでもオカアサンに愛されるなら。


「うさぎさんなんてしらない、しらないの」


かぶりを振ってアリスは、聴こえないふりをすると目を強くつぶった。

このままではアリスは確実に歪んでしまうだろう。
僕は誰よりも何よりもアリスを守らなければならない。
それこそがシロウサギの役目。

白木蓮が沈む夕暮れに赤く、そして強く香る。
アリス。君が望むものはもう僕(シロウサギ)ではない。


僕らのアリスが望むのは、


「・・・そうね、うさぎさんなんて居ないね」


不意に高い、少女特有の声がして亜莉子は不思議そうに顔を上げた。
しゃくりあげる肩にそっと手を置いて微笑んだ。


「おともだちになりましょう?」


愛しい君が望むなら、
シロウサギである事を忘れさられたって、存在を捨てたっていいんだ。

だから僕らのアリス

白木蓮の微笑み <<泣かなくていいんだよ>>
  ++++++++++++ 拍手より転載しました。