・正月に寝転がってTV見る叔父さんvsチェシャ猫


「おい、生首。そこからどけ」

灰色フードの頭、つまり亜莉子の猫がコタツの卓上で蜜柑と一緒に転がっている。
自分が横になったこの状態ではテレビが見えない微妙な位置に、だ。
つい先程まで大人しく姪の膝の上に抱かれていたのだが、
祖母の手伝いをしてくるといったきり、居間に置き去りにされたままだ。

「僕はナマクビじゃなくて猫だよ」
「生首でも猫の生首でも何でもいいから、あー、いいから早く降りろ」

司会者が何か笑える事でも言ったのだろうか、
テレビから大きな笑い声が部屋に響いてくるが、
猫のにんまりとした顔に阻まれて肝心の場面は見えない。
毎度の事だがコイツからまともな返答は期待できそうにないな。

「猫はコタツで丸くなるものさ、オジサン」

どうやら退く気は無いらしく、
のんびりと裂けた様な口をもっと引き上げて猫が諭してくる。

「それはコタツの中での話だろうが」
「コタツには違いないさ」

丸くなれない生首だけの奴が言う台詞じゃないぞ。
しれっとした顔をする猫に悪態をつきながら、
強制的に猫の頭を持ち上げてコタツの横に降ろす。

今では非常識な物体である自称猫の頭に慣れてきたといっても、
この両手に感じる、現実味のある人の頭的な重量感には慣れそうにない。
亜莉子もよくこれを膝にいつも乗せていられるものだ。人間の頭だぞ、頭。

コタツに入り直し横になると、ようやく念願のテレビが見えるようになった。
やはり狭い卓上には蜜柑の小山が積んであるだけで十分なのだ。 
それに猫ならコタツの中にでも入ってればいいじゃないか。

少し不満げな表情で猫に見られている気もするが、
お前は後で亜莉子の膝にでもまた乗せてもらえばいいさ。

 
   
どんぐりの背比べ <<どっちもどっちじゃないかしら>>
  +++その後+++ 「もー、叔父さんったら寝たままテレビ見るなんて行儀良くない」 「寝転がって見るもんじゃないけれど、正月くらいいいだろう」 「そんなこと言って、いつもごろ寝してるじゃない」 戻ってきた亜莉子ちゃんにお説教をうける叔父さんを、 膝に乗せられて上機嫌なにんまり顔で見る猫という図。 最初はただの灰色の猫に見えたのに、 だんだんと叔父さんにも猫の頭に見えるようになったらいいな設定です。